悪質!「トイレのつまり」ぼったくり被害

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 近時、愛知県内を中心に、トイレのつまりを直すためにインターネットで修理業者を検索し、安価な修理代金が記載されたホームページを見て修理を依頼したところ、思いがけない高額の修理費を請求されてやむを得ず支払ってしまったという被害が多発しています。
 同じような被害に遭わないようご注意ください。
 万が一、修理を依頼してしまった後になって、トイレのつまりを解消するための修理契約が「何かおかしい」と感じた場合には、修理作業実施の有無や代金支払の有無にかかわらず、ご自身で悩み込まずに、まずはお近くの消費生活センターや弁護士にご相談ください

典型的な被害について下記の事例を用いて説明致します。

 

[事例]
 老齢の専業主婦であるAさんは、自宅のトイレの水の流れが悪いことから、インターネットで修理業者を検索し、「トイレのつまり780円~」などと記載された修理業者のホームページを見つけた。Aさんは、この程度の値段で済むならと考え、すぐに電話をかけてその修理業者を呼んだ。

修理業者はAさんの自宅に来訪し、トイレを確認するなり、「本当は排水管を全部取り替えた方がよいが、それには200万円から300万円ほどの値段がかかります。」「でも高圧洗浄機を使うと20万円から30万円ほどで済みます」などとAさんに言った。Aさんは作業代金の相場もわからないため戸惑っていると、修理業者はさらに「毎日使っているトイレが使えないと困りますよね。」「修理を別の機会にするともっと金額が高額になります。」などとAさんの不安を煽ったため、Aさんはやむを得ず、修理を依頼した。
 Aさんは修理業者に修理を任せて他の家事等を行っていたところ、修理業者から作業が終わったと言われ、合計約60万円の修理代金が記載された契約書を渡され、サインを求められた。
 Aさんはあまりに高額な修理代金に驚いたものの、修理業者が何らかの作業を行った様子であったため、修理を頼んだ以上は代金を払わないわけにはいかないと思い、契約書にサインを行った上、現金で修理業者に約60万円を支払った。

 

[解説] ※特商法=特定商取引法、消契法=消費者契約法
 上記の事例は、修理業者が消費者Aさんの水道工事代金に関する専門的知識の不足、日常的に使用できないと困るトイレの修理の緊急性、自分から依頼をして作業を行った以上は代金の支払を拒みづらいという消費者心理に付け込んで高額の修理代金を支払わせた悪質かつ巧妙な消費者被害といえます。

このような被害に遭ったAさんは泣き寝入りするほかないのでしょうか。


①クーリング・オフ(特商法9条)の可能性
 クーリング・オフ
は法定書面の交付を受けた日から8日間は無条件で消費者契約を解除することができる制度です。一般的には、消費者が電話で修理業者に来訪を要請した場合(自宅での契約申込み又は締結を請求した場合)にはクーリング・オフの適用がないのが原則ですが(特商法26条6項1号)、電話の時点では作業の内容も価格も確定していないため、契約の申込み又は締結の請求があったとはいえない(同号には当たらない)ものと考えてクーリング・オフを主張する余地があります。
 また、クーリング・オフ期間は、法の定める記載事項を備えた法定書面(特商法4条・5条、上記の事例では契約書がこれに当たります)が交付された時から起算されます。したがって、交付された法定書面の記載内容に不備がある場合には、たとえ契約書を交付されてから8日間が過ぎていても、いまだクーリング・オフ期間は進行していないものとして、解除を行う余地があります。


②その他契約取消しの可能性
 上記の事例で、本当は排水管の取替えや高圧洗浄機の利用が必要ではなかった場合や修理業者から説明された各作業の代金が一般的な相場に比べて著しく高額な場合等には、不実告知(虚偽の説明)による取消しを行う余地があります(消契法4条1項1号、特商法6条1項・9条の3の1項1号)。
 また、Aさんが契約書にサインするより前に修理業者が作業を完了させた点では、平成30年の消費者契約法改正で新たに追加された同法4条3項7号(消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の全部又は一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること)に基づいて修理契約を取り消すことも考えられます。


③公序良俗違反(契約無効)の可能性
 修理業者の誘因の方法(あたかも安価で修理できるかのようなホームページの表示)、不十分かつ不正確な作業内容・作業料金の説明、作業実施後の著しく高額な代金の請求を一連の経緯として見たとき、上記事例の修理契約は、その手段・方法、目的、結果のいずれにおいても社会的相当性を逸脱し、公序良俗(民法90条)に反するものとして、契約は無効であると考える余地があります。


 このように、既に修理の完了した修理契約であっても、必ずしもAさんによる契約の解除・取消し・無効主張の手段が絶たれているわけではありません(ただし事案ごとに事情が異なるので常に上記①~③の主張が認められるわけではない点にご注意ください)。上記①~③による法的主張のいずれかが認められる場合には、契約は最初からなかったことになり、Aさんは修理業者に対し修理代金の返還を求めることができます。

また、事例とは異なりますが、もし修理代金を支払っていない段階であれば、弁護士が介入することによって、悪質な修理業者からの請求を拒める可能性があります。