独占禁止法にいう「再販売価格維持行為」について

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Q1、メーカーXは、その製作した商品を卸売業者Yに販売するに際し、値崩れをおこさないよう、

 イ、Yの小売店に対する販売価格および、
 ロ、小売店の消費者に対する小売価格

 を指定したいと思っています。

  Xの行為に法的な問題がありますか。

 

A1、メーカーXの行為は、独占禁止法の「再販売価格維持行為」に該当する可能性があります。

1.商品を製造・販売している業者Xが、これを購入しようとする業者Yに対し、Yの商品の「販売価格を定める」等、Yの「価格の自由な決定を拘束する」と、原則として違法となります(独占禁止法2条9項4号)。Yが市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業者の事業活動において最も基本的な事項であり、かつ、これによって事業者間の競争と消費者の購入に関する選択が確保されるからです。

2.ただし、この原則にも例外があり、①法律上許容されている場合と、②正当な理由がある場合においては合法とされます。

(1)法律上許容されている場合
 これは、著作物(書籍等)と公正取引委員会の指定を受けた商品(指定再販商品)の2種類ですが、後者は1997年3月31日に化粧品と医薬品の指定が廃止されて以降存在しません。

(2)正当な理由のある場合

 ア.例えば100%子会社に対して行う再販売価格の指定、委託販売の場合などは、子会社や委託販売先はメーカーの単なる取次として機能しており、実質的にみてメーカーが販売していると認められるので正当な理由があり、合法です。

 イ.ブランド間競争の促進は正当化理由になるか

 再販売価格拘束によってブランド内競争を制限しても、それがブランド間競争を促進するのであれば正当化理由になるのか。

 やや古い事例ですが、育児用粉ミルクのメーカーである和光堂は、明治や森永に比してシェアが低く市場競争力が弱い自社の商品についての再販売価格維持行為は、それによってかえって他の商品との間における競争を促進することになるから公正競争阻害性を有しないと主張しました(ただし、最高裁判所はこれを否定した事案です)。いずれにしてもこの点は難しい議論となりそうで、まだ定まった見解は形成されておりません。

 ウ.市場に与える影響が軽微であることは正当化理由になるか

 形式的には再販売維持行為に該当しても、品ぞろえに加えることが不可欠または重要とは言えない商品の場合などは、市場に与える影響が少ないとして公正競争阻害性を欠くといえるかも議論が分かれるところです。

 例えば、最近のミネラルウォーター事件において、「日田天領水」は食品類・酒類を販売する小売業者の中で品ぞろえに加えることが不可欠な商品とまでは認定されず、仮に日田天領水の価格が維持されて販売されたとしても、ミネラルウォーター市場に与える影響が極めて軽微であれば、公正競争阻害性を実質的に欠くとの議論もあり得ます。

  ちなみに、公正取引委員会が定める「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(ガイドライン)では、①流通業者の競争品の取扱いに関する制限と②流通業者の販売地域に関する制限を課す場合については、メーカー(売手)の市場シェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以下である事業者が行うものについては、通常、違法とはならない旨示しています。




Q、ところで、Xが「販売価格を定める」とは、どのような場合を指すのでしょうか。

 A2、

 販売価格は、確定した価格のほか、〇〇%引き以内の価格、〇〇円以上〇〇円以下、近隣店の価格を下回らない価格、事前に承認を受けた価格といった表現も含みます。希望小売価格や建値といった表現は、それ自体違法となるものではありませんが、その価格維持に拘束力をもたせれば、再販売価格維持行為として原則違法となります。希望小売価格の表示は、「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった言葉を用いることになります。

 

Q3、では、Xのどのような行為がYの「価格の自由な決定を拘束する」とされるのでしょうか。

 A3、

 XY間の契約書の作成、Yに同意書を提出させる、Xが提案した取引条件を受諾した流通業者とのみ取引する、売れ残った商品は値引きせずXが買い戻すことを取引の条件とすること等は、Yの販売価格の自由な決定に対しXの拘束力があると認められます。また、出荷停止など経済的不利益を課す場合も拘束力があると認められます。

 

 以上、再販売価格維持行為の取り扱いについては評価の難しい事案もありますので、弁護士にご相談ください。