セクシャルハラスメントと裁判例

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1 セクシャルハラスメントとは
 セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、「相手の意に反する性的言動」のことをいいます。裁判において違法なセクハラ行為と判断された場合には、加害者本人が不法行為責任を負うことになります。また、事業主には、セクハラに対する雇用管理上の措置を講じることが義務付けられており(男女雇用機会均等法11条参照)、一定の場合には、事業主も賠償責任を負う可能性があります。

 
2 裁判例の傾向
(1)裁判例としては、以下に該当する場合には、高額な慰謝料(100万円~300万円程度)が認められやすい傾向にあります。

 ・セクハラ行為が身体的接触を伴い、特に強姦や強姦未遂、強制わいせつに該当するような悪質性の高い事案

 ・セクハラ行為が多数回、長期間にわたるような事案

 ・被害者がPTSDなど心身不調を来している事案

 ・セクハラに関連して退職に至った事案や休職に追い込まれた事案

   それに加え、セクハラにより休職や退職に至った場合には、休業損害や逸失利益が認められるものもあり、その場合には全体の賠償額が高額となる傾向にあるようです。

(2)逆に、身体的接触を伴わず不適切な言動がなされたに過ぎない場合には、低額な慰謝料(20~30万程円程度)にとどまる場合が多いようです。

 
3 高額認定事案
 高額の損害賠償が認められた裁判例として以下のものがあります。

事例1 岡山地裁平成14年5月15日判決
 被告会社の社員であった原告X1及びX2が、上司であった被告Aから繰り返し性的な言動をされるなどのセクハラを受け、同じく被告Bから性的嫌がらせないし男女差別的発言を受けたと主張して、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償を請求した事例。

 認容額:X1 1528万9320円(慰謝料200万円)

     X2 1480万2080円(慰謝料30万円)

※被告らの違法な行為がなければ、少なくとももう1年間は被告会社に勤務し、降格される前に支給されていた給与を得ていたとして高額の逸失利益を認めた。

 

事例2 福岡地裁平成17年3月31日判決

 被告会社にパートタイマーの事務員として勤務していた原告が、被告会社の代表者である被告Aからセクハラを受け、また、そのことを職場の者に相談したことにつき一方的に責められた上に不当に解雇され、心的外傷後ストレス精神障害(PTSD)を発症したと主張し、被告らに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事例。

 認容額:560万円(慰謝料500万円)

※セクハラ行為とその後の解雇等の一連の過程によって被害者が被った精神的苦痛と就労の機会の喪失等の無形損害を一体のものとして考慮。

 

事例3 京都地裁平成19年4月26日判決

 被告会社に勤務していた原告が、被告会社の代表取締役である被告Zからセクハラ行為を受け、人格を傷付けられ、退職を余儀なくされたとして、被告らに対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事例。

 認容額:630万円(慰謝料630万円)

※加害者の発言が職務として性交渉を要求するもので極めて悪質であったこと、被害者の就職直後から1年2か月に渡って継続的に行われていたこと、被害者の性交渉拒否を理由として退職を強要したことなどを考慮。