あおり運転に対する刑事罰について

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1、昨今、いわゆる「あおり運転」による事故やトラブルのニュースが後を絶ちません。
 平成29年には、東名高速道路であおり運転により一家4人が乗る自動車が停車させられ、後続車両に追突された結果、両親が死亡するという痛ましい事件が発生しました。今年に入ってからも、あおり運転をして強引に車を停止させた挙句に被害者を殴打するという信じられない事件もありました。

 本記事では、あおり運転をするといかなる刑事罰の対象になるのか、という点について概説します。

 
2、道路交通法違反
⑴ 安全な車間距離をとらずに走行する行為は、車間距離保持義務違反となります(道路交通法第26条)。高速道路においては3か月以下の懲役または5万円以下の罰金、一般道においては5万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
⑵ 危険防止を理由としない不必要な急ブレーキは、急ブレーキ禁止違反となります(道路交通法第24条)。3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
⑶ 執拗にクラクションを鳴らす行為は、警音器不正使用となります(道路交通法第54条2項)。2万円以下の罰金または科料が科せられる可能性があります。
⑷ その他、あおりの態様によっては、進路変更禁止違反(道路交通法第26条の2)、安全運転義務違反(道路交通法第70条)などに該当する可能性もあります。
⑸ ただし、いずれも悪質・危険なあおり運転を想定した規定ではないため、刑罰としては軽すぎるとの指摘があり得ます。

 
3、暴行罪(刑法208条)
 暴行罪とは、人の身体に対して不法な有形力を行使したときに問われる罪であり、身体に接触していなくても成立します。無理に幅寄せしたり、車間距離を詰めたりといった危険な行為については、交通事故に至っていなくとも、暴行罪が成立する可能性があります。
 暴行罪が成立する場合、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料という刑罰が科せられます。

 
4、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法第2条)
 危険運転致死傷罪は、一定の悪質・危険な運転により人を死傷させたときに問われる罪です。
①正常な運転が困難になるほどの飲酒・薬物使用運転、
②制御困難なほどの高速度での運転、
③車を制御する技能を有しないでする運転、
④人や車の通行を妨害する目的で著しく接近するなどし、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転、
⑤赤信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転、
⑥通行禁止道路を進行し、かつ重大な危険を生じさせる速度での運転
のいずれかによって人に怪我をさせたり死亡させたりした場合に成立します。

 危険運転致死傷罪が成立する場合、死亡事故なら1年以上20年以下の有期懲役、負傷事故なら15年以下の懲役という極めて重い刑が科されます。

 
5、殺人罪(刑法199条)
 場合によっては殺意があると認められ、危険運転致死傷罪よりもさらに重い殺人罪が成立する可能性があります。
 殺人罪が成立する場合、死刑または無期もしくは5年以上20年以下の有期懲役が科されます。
 車の運転者がバイクを煽り、最終的に時速100キロ近い速度で追突し大学生を死亡させた事案において、平成31年1月、大阪地裁堺支部は、異例ながらも殺人罪を適用し、懲役16年の判決を言い渡しました(※ただし、被告人が控訴しており、執筆時点では確定していません)。

 
6、あおり運転が社会問題として取り上げられるようになり、厳しい目が向けられているにもかかわらず、各地であおり運転によるトラブルが多発しています。
 万が一に備え、ドライブレコーダーを設置しておくことをお勧めします。