民法改正(2) 法定利率について

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令和2年4月1日に施行された民法改正に伴い、「法定利率」の制度が大きく変わりました。

 

1、利率の変更と変動利率制の採用

改正前民法では、当事者間に約定がないときの法定利率は年5%とされていました。

  しかしながら、市場金利と比較して年5%というのは高すぎるとの批判がなされていたことから、下記のとおり、変更されることとなりました。

    ①当初の法定利率は年3%

    ②3年ごとに1%刻みで変動する(1回目の見直しは令和5年4月1日)

  また、これと同時に、商事法定利率年6%が廃止されました。

 

2、利率の基準時

変動金利制が導入されましたが、継続的な契約の場合、どの時点の利率を適用するかが問題となります。改正法では、特段の合意のない限り、「その利息が生じた最初の時点における法定利率による」(民法404条1項)とされ、契約の途中で利率が変動しないように手当てがなされています。

また、例えば売掛債権について、売掛先が支払わない場合の遅延利息は、売買契約の時の利率か、それとも支払いが遅れたときの利率かについては、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める」(民法419条1項)とされました。

 

3、交通事故による損害賠償請求権

交通事故による損害賠償請求権については、事故日から支払日まで遅延損害金が発生します。そして、事故日の法定利率に基づいて計算されますので、事故日が令和2年3月31日以前の場合は年5%の遅延損害金が、事故日が令和2年4月1日以降の場合は年3%(事故日が見直し後であれば直近の見直し後の利率)の遅延損害金が発生することになります。

もっとも、後遺障害の逸失利益については、症状固定時に損害が明らかになることから、症状固定時の利率を採用すべきとの見解も示されています。

 

4、中間利息の控除

法定利率の改正によって、交通事故等で死亡あるいは後遺障害が残存した場合の損害賠償請求金の額について、「中間利息の控除」でも大きな影響が及ぶことになります。

損害賠償額の算定にあたって、将来において取得すべき利益を受け取る場合、その金額を現在の価値に引き直す必要があります。例えば、同じ100万円でも、10年後の100万円と現在の100万円とでは価値が異なります。なぜなら、現在の100万円は利息が付いて、10年後には100万円以上の金額となるからです。この場合に、将来の利息を控除して、現在の価値に引き直すことを「中間利息控除」といいます。

この「中間利息控除」の計算にあたって控除する利息について法定利率が用いられているのですが、「年5%で中間利息を控除した場合」と「年3%で中間利息を控除した場合」とで、どれだけ金額が異なるのかを試算してみます。

例えば、年収500万円の男性が、交通事故による後遺障害によって、20年間にわたって労働能力20%を喪失した場合、逸失利益(注:被害に遭っていなければ本来得られたであろう利益)の計算式は、以下のとおりとなります。

    【年5%で中間利息控除した場合の計算式】

5,000,000円×20%×12.46220年間に対応する係数)=12,462,000

    【年3%で中間利息控除した場合の計算式】

5,000,000円×20%×14.87720年間に対応する係数)=14,877,000

   このように、損害賠償額に大きな違いが生じることが分かります。

以上のとおり、法定利率の引き下げに伴い、中間利息の控除額が変わり逸失利益が増額することになります。