法の不遡及(ふそきゅう)の原則

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法の不遡及(ふそきゅう)の原則

~ふるさと納税に関する最高裁令和2年6月30日判決~

 

1、法の不遡及(ふそきゅう)の原則とは

法令は施行と同時にその効力を生じますが、原則として将来に向かって適用され、法令施行前の出来事には効力が及びません。人がある行為を行った後に、その後の法令によって予期したものとは異なる結果となるのでは、法律関係を混乱させ社会生活が不安定になるからです。

 

2、改正地方税法の施行と除外決定

改正地方税法が令和元年6月1日から施行され、ふるさと納税を実施できる地方団体は、以下の事情を考慮して総務大臣が指定することとなりました。

  ①寄付金の募集を適正に実施する地方団体

  ②返礼は寄付額の3割以内の地場産品とする

その上で総務大臣は、大阪府泉佐野市をはじめ4地方団体をふるさと納税の対象から除外したのです。その理由は、平成30年度(平成31年3月まで)に過度な返礼品で多額の寄付を得たことにあるようです。

 

3、法的な問題点

たしかに泉佐野市のなりふり構わぬ寄付金集め(通販大手アマゾンのギフト券を贈るなどして平成30年度の寄付額は497億円にのぼったと言われています)の是非は議論のあるところで、他の自治体からは「正直者がバカをみる」などの厳しい批判がありました。

しかしそれとは別に、改正法施行前の事情を考慮して懲罰的にふるさと納税の指定地方団体から除外したのであれば、実質的には法の不遡及の原則に反する可能性があります

そこで、泉佐野市は、総務省の上記2の決定は違法だとして、その取消を求める訴訟を起こしました。裁判では、平成元年6月1日に施行された改正地方税法の適用において、平成30年度の段階の募集実態を理由に、ふるさと納税指定団体から除外した国の判断の妥当性が争われたのです。

 

4、最高裁判所の判断

最高裁判所(第三小法廷)は、令和2年6月30日、新制度に移行する前の寄付募集の実態をふるさと納税対象除外の判断材料とした総務省のルールは違法で無効だと判断し、原審の大阪高等裁判所判決を破棄し、国の除外決定を取り消しました

裁判所は、改正前の行為とはいえ、寄付募集をエスカレートさせた泉佐野市を「社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」との批判的な指摘をしつつも、新制度の内容を定めた改正地方税法の条文や立法過程を検討した上で「新制度移行前の募集実態を参加可否の判断材料にするといった趣旨はない」と判断し、同法を受けて具体的な参加要件を定めた総務省のルールは法の趣旨を逸脱し、無効だと判断したのです。

 

※なお、宮崎裁判官は補足意見で「本件改正規定によって同制度における寄付金の募集態様や返礼品の提供に適用される規範が新しく定められたものであるから、本件改正規定の施行前の行為が制度の趣旨に反するか否かを、本件改正規定の施行後の行為に適用されるべき規範によって評価することは出来ない。」とし、

林裁判官は補足意見で「本件改正規定の施行前においては、返礼品の内容や返礼割合を含む募集の態様について特段の法的規制がなく、寄付金をいかに増やすかについては、いわばアイディアの自由競争に委ねられており、泉佐野市は、その様な競争を主務官庁の助言を無視して最大限に追求したとはいえ、あくまでも法律の枠内にとどまる行為を取ったに過ぎないと評価されるため、主務官庁の目からすればどれほど不適切に思えても、そのことゆえに不利益な処分を行うことを当然には正当化できないからである。」としており、

いずれも法の不遡及の原則を明らかにしています。