後遺障害逸失利益につき、定期金賠償を認めた最高裁判例

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後遺障害逸失利益につき、定期金賠償を認めた最高裁判例

(最高裁令和2年7月9日判決)


1、事案の概要

 4歳の男子Xは、平成19年2月に交通事故に遭い、高次脳機能障害の後遺障害(自賠責で3級の等級認定)を残しました。

 ②Xは加害者Y1とその勤務先であるY2、そして保険会社Zに対して、後遺障害逸失利益や将来介護費用等を含む損害の賠償を求めて訴えを提起しました。

  後遺障害逸失利益については、18歳から67歳まで毎月支払いの定期金賠償での支払いを求めました。

 ③Y1らは“定期金賠償方式の支払いは認められず中間利息を控除した一時金での賠償によるべき”と反論していましたが、第1審(札幌地裁)、控訴審(札幌高裁)ともに、Xの主張の通り、定期金賠償方式での支払いを認めたため、Yらは最高裁の判断を求めるべく上告及び上告受理申立てをしました。

 

2、一時金賠償と定期金賠償との違い

「後遺障害逸失利益」とは、後遺障害で労働能力を喪失したことによって将来得られたであろう収入を失ったことによる損害です。これまでのほとんどの裁判例は、後遺障害逸失利益について、年5%の中間利息を控除して一時金での賠償方式を採用していました。

  本件事案で、この方法で算定する場合、以下のようになります。

   <一時金賠償方式の場合>

    ①基礎収入:529万6800円

    ②労働能力喪失率:100%

    ③労働能力喪失期間:49年(18歳~67歳)

     ※症状固定時10歳

    ④中間利息(年5%)を控除する係数:12.2973

     57年(10歳~67歳)のライプニッツ係数18.7605

     8年(10歳~18歳)のライプニッツ係数6.4632

     → 18.76056.463212.2973

    ⑤損害額:

①529万6800円×②100%×④12.2973

6511万7270円

     ※本件では2割の過失相殺が認められているため、その分減額されることになります(以下同じ)

 

   一方、Xが主張していたように定期金賠償で支払う場合の総額は以下のようになります。

   <定期金賠償方式の場合>

    ①基礎収入:529万6800円

     →月額44万1400円

    ②労働能力喪失率:100%

    ③労働能力喪失期間:49年(18歳~67歳)

    ④損害額:

①44万1400円×12カ月×②100%×③49年

2億5954万3200円

 

  驚くべきことに、2億円近い差額が生じることになります

  ※民法改正(2020年4月1日施行)により遅延損害金が年3%(変動制)となったため、控除される中間利息も変わりましたが、それでも賠償額総額に大きな差異が生じます。

 

 

3、最高裁の判断

(1)結論(X勝訴

   Yらの上告を棄却し、後遺障害逸失利益につき定期金賠償方式による賠償義務を認めました。

   

(2)理由

  ① 被害者が事故によって身体傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労働能力の全部又は一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失したという損害についても、不法行為の時に発生したものとして、その額を算定した上、一時金による賠償を命ずることができる。

しかし、上記損害は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから、将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生ずることもあり得る

② 民法は、不法行為に基づく損害賠償の方法につき、一時金による賠償によらなければならないものとは規定しておらず(722条1項、417条参照)、他方で、民訴法117条は、定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を規定している。同条の趣旨は、口頭弁論終結前に生じているがその具体化が将来の時間的経過に依存している関係にあるような性質の損害については、実態に即した賠償を実現するために定期金による賠償が認められる場合があることを前提として、そのような賠償を命じた確定判決の基礎となった事情について、口頭弁論終結後に著しい変更が生じた場合には、事後的に上記かい離を是正し、現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平に適うということにあると解される。

③ 不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。このような目的及び理念に照らすと、交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき、将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに、上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。

  ④ 交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。

 

4、コメント

(1)本判決の位置付け

   本判決は、最高裁判所が初めて後遺障害逸失利益について定期金賠償方式による賠償義務を認めたという意味で、画期的な判決といえます。

(2)要件

   上記のとおり、後遺障害逸失利益について定期金賠償方式による賠償義務を認める要件として、

   ①被害者が定期金賠償方式による賠償を求めていること

   ②不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念(被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とする)に照らして相当と認められること

  を挙げていますが、②の要件は極めて抽象的であり、今後の裁判例の蓄積が待たれるところです。

(3)留意事項

   上記のとおり、数字上は定期金賠償方式による賠償の方がはるかに大きな金額となり得ます。しかしながら、本判決も指摘している通り、将来の事情の変化により裁判所で減額の認定がなされるリスクや、将来的に加害者側の支払能力に問題が生じて回収ができなくなるリスクがあることは留意が必要です。

(4)その他の重要な点

   本判決は「上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。」と判示しており、この点も画期的な判断であるといえます。

   その他、本件事案では、将来介護費用の算定、高次脳機能障害の等級認定、4歳児の被害者側の過失による過失相殺等、重要な争点がありましたが、ここでは割愛いたします。