債権の仮差押えを受けた仮差押債務者と第三債務者との示談の効力

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(最高裁判所第三小法廷令和3年1月12日判決)

【出典】裁判所時報1760号1頁


1 事案の概要
 XがAに対して有する甲債権に基づいて、AらがYに対して有する乙債権(不法行為に基づく損害賠償請求権)のうち、4822万3907円に満つるまでの部分について債権仮差押命令を得た後、AらとYは、乙債権が4063万2940円を超えないことを確認する趣旨を含む内容の示談をしました(以下「本件示談」といいます)。
 その後、Xは、Yに対し、乙債権に基づき、本件示談で確認された金額を超える4822万3907円の支払を求める訴訟を提起しました。


※「仮差押え」とは、債権者の一方的な申立てと疎明により、裁判所の決定を得て債務者の財産を仮に差し押さえることをいいます。
債務者の不動産、預金、売掛金等が対象となり、銀行や売掛先は「第三債務者」と呼ばれます。第三債務者に仮差押え決定が送達されると、第三債務者は仮差押えに係る債権額を債務者に支払うことができなくなります。


2 原審の判断
 原審(控訴審)は、乙債権は、不法行為に基づく損害賠償請求権であって、不法行為の時点において具体的な金額を直ちに確定することができないものであったところ、本件示談は、その金額を損害賠償金として社会通念上相当な額である本件示談金額と確定したものであり、本件示談は仮差押命令により禁止されるXを害する処分であるとは認められず、Xは、Yに対し、本件示談金額を超える額を請求することができない、と判断しました。


3 最高裁判所の判断
 最高裁判所は、以下のとおり判断して、原審を破棄し、乙債権の金額等についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。
【要旨】
①債権の仮差押えを受けた差押債務者は、当該債権の処分を禁止されるから、仮差押債務者がその後に第三債務者との間で当該債権の金額を確認する旨の示談をしても、仮差押債務者及び第三債務者は、仮差押債権者を害する限度において、当該示談をもって仮差押債権者に対抗することはできない
②本件示談は、Aらが本件仮差押命令による仮差押を受けた後にYとの間でしたものであり、乙債権が本件示談金額を超えないことを確認する趣旨を含むものであると解され、本件示談金額が実際の損害賠償請求権の合計額を下回る場合には、Xを害することになり、Yはその限度において、本件示談をもってXに対抗することができない
③乙債権が不法行為に基づく損害賠償請求権であることや、本件示談金額が損害賠償金として社会通念上相当な額であることなど、原審の指摘する事情は、以上の判断を左右するものではない。


4 コメント
 仮差押えの執行がなされると、仮差押債務者(A)には、差押えを受けた財産に対する処分禁止効が生じ、これに反して、仮差押債権者(X)を害する行為は、仮差押債権者(X)との関係において相対的に無効となります。
 本件では、仮差押えの対象となった損害賠償請求権について、不法行為時に金額が確定した請求権が存在し、実際の損害賠償請求権よりも減額した金額で示談をすることは、仮差押債権者を害する行為にあたると判断されました。
 差戻審においては、本件示談が実際の損害賠償請求権を下回り、仮差押債権者を害するものであるか否かについて審理されることとなります。