遺言成立日と異なる日付を記載した遺言の効力について判断した最高裁判決

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(最高裁令和3年1月18日判決)


1、事案の概要
(1)当事者関係

 Xら:亡Aの妻であるX1と同人と亡Aの間の子X2~X4

 Yら:亡Aの内縁の妻であるY1及び同人と亡Aとの間の子Y2~Y4です。

(2)事案の経緯
  昭和49年8月26日: X1とAが婚姻
  昭和57年8月頃:   X1とAが別居(その後AはY1と同居)
  平成27年3月20日: Aが自身の遺言書の作成につき弁護士に相談
  平成27年4月13日: Aが入院先の病院で遺言の全文、同日日付及び氏名を自署
  平成27年5月10日: 退院したAが弁護士の立会の下で遺言書に押印
  平成27年5月13日: A死亡


 Xらは、財産の2分の1をY1とY2~Y4に相続させる旨のAの遺言は、遺言書に記載された日付と実際の作成日が異なることなどを理由に、無効確認を求めて訴えを提起しました。


2、問題の所在
 遺言は、本文の記載・署名・押印・日付の記載が調った日に成立するものとされており、本件では、押印までが揃った「平成27年5月10日」が遺言の成立日であると考えられます。
 そうすると、「平成27年4月13日」という本件遺言の日付の記載は、実際の作成日と異なるため、遺言全体が無効となるのではないかが問題となります。


3、裁判所の判断
(1)原審の判断(名古屋高等裁判所平成30年10月26日判決)
「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても、その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言書の記載その他から容易に判明する場合には、上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが、Aが本件遺言書に『平成27年5月10日』と記載する積もりで誤って『平成27年4月13日』と記載したとは認められず、また、真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。よって、本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。」

(2)最高裁の判断
結論:破棄差し戻し。
理由:
「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなげればならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・裁判集民事120号531頁参照)、前記事実関係の下においては、本件遺言が成立した日は、押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり、本件遺言書には、同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記載されていることになる。
 しかしながら、民法968条第1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
 したがって、Aが、入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。
 ・・・本件遺言のその余の無効事由について更に審理を尽くさせるために、これを原審に差し戻すのが相当である。」


4、コメント
 最高裁は、遺言の日付は実際に遺言が作成された日付を記載しなければならないという一般論を確認した上で、自筆証書遺言が厳格な方式を要求する趣旨である「遺言者の真意の確保」等の観点から、本件事案の事情においては、遺言は直ちに無効にはならないとの判断を下しました。
 本件事案では、弁護士への相談からその立会の下での遺言への押印までの一連の過程や時間間隔等を踏まえると、亡Aが遺言を通じて行った意思表示に誤りが入り込む余地はないに等しいと評価できるため、自筆証書遺言の制度趣旨を汲み取って具体的事情に即した判断を行う上記最高裁の判断は適切なものであると思われます。