民法改正(8)~請負契約について~

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「請負契約」というと何やら専門的と思われるかもしれませんが、私たちの生活上、請負は実にポピュラーな契約類型です。自動車の修理は修理業者さんとの、荷物の運送は宅配業者さんとの、下請け工事は元請業者さんとの請負契約です。

今回は、建築請負を例に改正点を拾ってみました。

 
Q1、私(Aさん)は、Y工務店に自宅の建築を依頼しました。しかし、Yは建前(棟上げ)と外壁工事までは実施したものの内装工事をせず、経営不振に陥り工事を中断してしまいましたので、私はやむを得ず別の工事業者に残りの工事を依頼せざるを得ませんでした。途中で工事を投げ出したYに請負代金の残金を支払いたくありませんが、いかがですか。
A1、
 Yの行為は商道徳としてはいかがなものかと思います。法的にも建築請負人であるYには、仕事を最後まで完成させ、そのうえで報酬を請求するのが原則といえます。しかし、仕事の進捗度合いや仕事を完成させられなかった事情のいかんにかかわらず、仕事を完成させない限り一切の報酬を請求できないとするのは請負人に酷な結果となります。
 従前の判例でも「工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎない」としていました(最高裁判所昭和56年2月17日判決)。
 そこで改正民法は、仕事の結果が可分で、その可分の部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、履行部分について仕事を完成させたとみなして、請負人がその分の報酬を請求できることとしました(民法634条)。
 本件では、建物建築のうち外壁工事までと内装工事に分けることができるので仕事の結果が可分と考えられます。従って、Aさんの場合、Y工務店に対し、外壁工事までの請負代金を支払う必要があると考えられます。

  
Q2、改正法が実務に及ぼす影響はいかがですか。
A2、
 既に実務では、建築請負やソフトウエアの開発など、作業が長時間にわたり、契約金額も多額にのぼる契約においては、契約書で、工事や作業の進捗程度に応じて支払い時期と報酬額を設定するなどして出来高部分の報酬を明確にしています。従って、実務への影響はそれほどないと考えられます。


Q3、私(Bさん)は、Z工務店に自宅の建築を依頼し建物が完成しました。しかし、基礎工事が十分でなかったためか、引き渡しからほどなくして家が傾いていることがわかりました。Z工務店はなんとか補修をしたいと申し出てきましたが、私は信頼することができないので、請負契約を解除し、また損害賠償を請求したいと思っています。
A3、
 大変なことになりましたね。従前は、建物に重大な不具合があっても注文者は請負契約を解除できないとされていました(旧635条但書)。しかし、注文者が重大な不具合のある建物を押し付けられることは耐え難いことです。判例も、建物に重大な瑕疵があるためこれを建て替えざるを得ない場合に、注文者の立替費用相当額の損害賠償請求を認めています(最高裁判所平成14年9月24日判決)。
 そこで、改正法では旧民法635条但書は本文とともに削除されました
 従って、Bさんの場合、当初の契約の目的を達成することができないと思われ、請負契約を解除し損害賠償を請求できると考えられます。


Q4、この改正法の影響はいかがでしょうか。
A4、
 建物その他の工作物について、契約解除の制限が撤廃されたことは大きな改正といえ、実務への影響は大きいと言えます。従って、注文者が建築請負契約の目的を達成できるか否かについて明らかにするため、特約条項を利用するなどして、契約の趣旨、目的、内容を明確にすることが必要といえます。


Q5、注文者の権利に期間制限はありますか。
A5、
 従前は、仕事の目的物に瑕疵がある場合、瑕疵修補請求、損害賠償請求、契約解除の請求は、仕事の目的物を引き渡した時から1年以内に権利行使をしなければならないとされていました。

改正法では、目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しないことを注文者が知った時から1年以内に不適合を通知することを要すると改められました(民法637条1項)。


Q6、期間制限の実務への影響はいかがでしょうか。
A6、
 注文者にとっては、仕事の目的物が契約内容に適合しない現象があっても、それが法的に請負人の担保責任を追及できるか否かについて容易に判断がつかない場合もあります。改正法は、注文者に不適合を通知すればよいとしたため、その権利行使の負担が軽減されています。
 他方、請負人としては、この期間制限は当事者の合意により排除することができますので、特約の活用を検討し従前どおりの規定とすることも可能です。ただし、一般の新築住宅の場合、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、引き渡しから10年間は責任を免れませんのでご注意ください。