根抵当権の消滅時効に関する最高裁判例

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(最高裁判所第二小法廷 平成30年2月23日判決)

1、事案の概要
 過去に破産し、免責許可決定を受けたXが、免責許可決定の効力を受ける貸金債権を被担保債権とする根抵当権(債務者X・根抵当権者Y)について、被担保債権である貸金債権につき消滅時効が完成したことに伴って根抵当権は消滅したとして、Yに対し根抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求めました。
  

2、原審(福岡高等裁判所平成28年11月30日判決)の判断
 原審は、
①免責許可の決定の効力を受ける貸金債権については消滅時効の進行を観念できない
②民法第396条により、抵当権は債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効消滅しない
として、Xの請求を棄却しました。

3、最高裁判所の判断
 最高裁判所は、
①免責許可の決定の効力を受ける債権は、もはや民法第166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することはできず、上記債権が抵当権の被担保債権である場合でも異なるものではない
②民法第396条は、その文理に照らすと、被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である
 そして、抵当権は、民法第167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである
③したがって、抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法第396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法第167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当であり、このことは、担保すべき元本が確定した根抵当権についても同様に当てはまる
④しかしながら、本件では根抵当権を行使することができる時から20年を経過していないから、結論においてXの請求には理由がない
と判断し、根抵当権それ自体が消滅時効にかかる場合があることを認めました。

4、コメント
 民法第396条が「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない」と規定した趣旨は、被担保債権が消滅時効にかかっていないにもかかわらず抵当権だけが消滅時効にかかるのは抵当権者の期待に反するというにあります。反対解釈で、債務者及び抵当権設定者以外の者である、例えば抵当不動産の第3取得者や後順位抵当権者は抵当権者と比べて保護する利益が大きいので、抵当権自体の20年の消滅時効を主張することができます。
 原審の判断に従えば、免責許可決定の効力を受ける被担保債権であっても、いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することになるという問題が生じます。
 本件で最高裁判所は、免責許可決定の効力を受ける被担保債権は民法第396条が適用されず、よって債務者及び抵当権設定者に対する関係でも抵当権自体の消滅時効が観念される、とした点で先例的価値があり、またその判断は正当と評価されます。