サッカーの試合中の怪我について賠償責任が認められた裁判例

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(東京地裁平成28年12月26日判決)

1.はじめに
 昨今、アメフトやボクシング、体操界など、スポーツ界における様々な問題がニュースで取り上げられています。アメフトでは故意に相手チームの選手に怪我を負わせるようなファールを犯したことが問題になりましたが、平成28年12月26日に、東京地裁において、社会人リーグにおけるサッカーの試合中の怪我について、怪我を負わせた相手方チームの選手に損害賠償責任を認める判決が出されました。

2.事案の概要
 この裁判例の事案は、次のとおりです。
 原告がボールをトラップした際、ボールが1m程離れたところでバウンドしました。原告は、カウンター攻撃を狙ってそのままボールを蹴ろうとしたところ、相手方選手である被告が、カウンター攻撃を阻止するため、スライディングをして先にボールを弾き出したものの、足の裏を原告に向けていました。そのため、ボールを蹴ろうとしていた原告の脛付近と被告の足の裏(スパイクの裏)が接触し、原告が脛骨の骨折等の傷害を負った、というものです。
 アメフトの問題とは違い、この裁判例では、被告が故意に原告を怪我させたという点については明確に否定されています。それでは、このようなスポーツ中の事故においても、損害賠償責任が常に認められるのでしょうか。

3.損害賠償責任について
 一般的には、スポーツ中の事故で、怪我を負わせた選手に過失が認められる場合であっても、スポーツを行う以上は一定程度怪我を負うことも承知の上で行っている筈であって、「危険の引き受け」があるという理屈や、ルールに従って競技を行う限りにおいては、社会的に相当な行為であるとして、違法性がないために損害賠償責任を負わない、とされています。逆にいうと、社会的に相当な行為と言えない場合には、損害賠償責任を負う場合もあるということになります。

4.上記裁判例の判断枠組みについて
 上記の東京地裁の裁判例においても、被告に過失があることを認定した上で、社会的に相当な行為と言える範囲内であったか否かという点を審理し、結論として、競技規則上全く想定されていないようなプレーとは言えないものの、退場処分が課されてもおかしくはない危険なプレーであり(この事案では審判にファールの判定もされていませんでした)、通常生じ得ないような重い傷害結果を生じさせたとして、社会的に相当な行為の範囲内ではなかったと判断しています。
 「社会的に相当な行為」と言えるか否かにあたっては、加害行為の態様や過失の程度、競技規則に照らして相当か否か、生じた傷害結果等、様々な事情から総合的に判断されることとなります。

5.雑感
 上記の東京地裁の裁判例に対しては、異論もあるところかと思います。スポーツを行う上で、ギリギリのプレーの中で意図していなくとも相手方に怪我を負わせてしまうこともあるでしょうし、そういう中で損害賠償責任が認められるとされてしまうと、過度な制約となって、スポーツを行うこと自体委縮してしまうこともあるかもしれません。
 一方で、怪我を負った選手の救済を考える必要もあります。どんな怪我であっても、怪我を負った選手が危険を承知していたとは言えないでしょうから、スポーツ中の事故であるからという理由のみで一切損害賠償責任が生じないとすることにも問題があると思います。
 抽象的には、スポーツに過度な委縮が生じないようにすることと被害者救済のバランスの問題だと思いますが、実際のケースで損害賠償責任を認めるべきか否かは非常に難しい判断だと思います。裁判となった場合には、当該スポーツを熟知しているわけではない裁判官が判断することになることが多いでしょうが、裁判官が考える競技の実態やルールの解釈と実際の競技者の考え方に齟齬が出てくることもあると思います。
 上記の東京地裁の裁判例では控訴されたようであり、その後、どのような解決がされたのかわかりませんが、個人的には、スポーツを行う際にも法律上の問題が生じ得ることを頭の片隅において、ルールの範囲内で楽しみたいと思います。

6.最後に
 余談になりますが、日常生活上、上記裁判例のように、思いもよらぬ事故で加害者になってしまうことがあります。そのような場合に備えて、個人賠償責任保険等の保険に加入しておくといいかもしれません。